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札幌地方裁判所 昭和37年(行)8号 判決 1963年2月05日

原告 冷清水健次郎

被告 札幌検察審査会

主文

本件訴を却下する。

訴訟費用は原告の負担とする。

事実

原告は「被告が昭和三七年九月一四日、早坂清一に対する公正証書原本不実記載被疑事件(札幌地方検察庁昭和三六年検第八、一一三号)の不起訴処分に関する原告の審査申立に対してなした不起訴処分を相当とするとの審査議決はこれを取消す。訴訟費用は被告の負担とする。」との判決を求め、被告代表者は、主文第一・二項と同旨の判決を求めた。 原告は請求の原因として次のとおり述べた。

原告は昭和三六年五月二日、訴外早坂清一を公正証書原本不実記載ならびに窃盗被疑者として告訴したところ、昭和三七年四月二三日、札幌地方検察庁検事矢野勝人は右被疑事件を不起訴処分になした。原告はこれを不服として、昭和三七年五月一日、被告に対し右不起訴処分の審査申立におよんだところ、被告は同年九月一四日右不起訴処分を相当とする旨の議決をした。しかし右審査議決は次のとおり不当である。すなわち被告のなした議決の理由中、原告が審査会議において「その後数日してから早坂が書類ができたからといつて私方に来たので、私は抵当権設定登記をするものと思つたので同人に登記権利証・印鑑証明書・白紙委任状を渡したのであります。」「もし私どもの印であるとすれば、早坂にこれまで印章を三回ほど預けたことがあるので、その時に早坂が勝手に押印したものと思います。」と各供述したことになつているが、原告は右のように述べたことはない。これは重大な誤りであつて、議決に影響をおよぼすことが明らかであるので、結局前記議決は事実を誤認してなした不当なものといわざるをえず、これの取消を求める。

被告代表者は答弁として次のとおり述べた。

本案前の弁論として、検察審査会は、検察官の不起訴処分の当否の審査および検察事務の改善に関する建議または勧告をその任務とするもの即ち準司法機関ともいうべきもので、その議決は準司法処分であり、一般の行政処分とその性質を異にしており、行政庁の処分に該当しない。よつて原告の本訴請求は不適法として却下さるべきである。

本案の答弁として、

原告主張の請求原因事実のうち、原告が昭和三六年五月に訴外早坂清一を公正証書原本不実記載被疑者として告訴したこと、昭和三七年四月二三日札幌地方検察庁検事矢野勝人が右被疑事件を不起訴処分に付したこと、原告が右不起訴処分に対して昭和三七年五月一日被告に審査申立をしたこと、被告が同年九月一四日不起訴処分は相当である旨の議決をしたことは、いずれも、認める。その余の事実は否認する。

理由

検察官の不起訴処分につき検察審査会に審査申立がなされ、同審査会がその当否につき審査のうえ議決がなされたときは、それに対する不服申立方法につき検察審査会法はなんらの規定をおかないうえ、公訴権を国家機関中検察官の独占するものとした法制のもとにおいては、検察審査会の議決は、刑事司法運用の一端を担当する準司法機関の準司法処分ともいうべきであつて、行政事件訴訟法にいう行政庁の処分に該当しないと解するを相当とするから、他の国家機関である裁判所は、もはや検察審査会の議決に対しては行政事件訴訟として受理し、これの取消救済をすることができないものといわなければならない。

してみると、原告の本訴請求は、裁判所に裁判権のない事項を目的とするものであるから不適法としてこれを却下することとし、訴訟費用の負担につき民訴法八九条を適用して主文のとおり判決する。

(裁判官 本井巽 間中彦次 今枝孟)

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